一年遅れのKING OF PRISM(キンプリ)感想

(この記事には『KING OF PRISM』の後半の展開に関する情報がぼかしながらも含まれます)


プリズムショーとは何か。
それは観ればわかる。
だから、キンプリは素晴らしい。



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かつてプロデューサーが語った『最初のシングルを予約した絶対に裏切れない1700人』のうちの一人として公開を待ちわび、結局公開されず悲しみに暮れ、実は半年前に一度やっていたことをつい最近知って衝撃を受け、そのおかげで今回の上映に気付けたという幸運を噛み締めながら観に行った。


凄かった。
作品の質も応援上映という形態も予想以上の存在だった。

作品編:

まず作品の出来がとてもよかった。
60分しかないし伏線の多くは未回収だし次回予告も流れるし(ポッピンQと同じことしたアニメが1年前にあったなんて……)、誰が見ても分かる映画としての問題点はいっぱいあるけれど、それらはさしたる問題ではない。
初めにプリズムショーとは何かというテーマを説き、終わりにその解を映像として応えて見せる。それにより作品として完結している。それが一番大切なことだ。
実際プリズムショーというものを1時間で理解できる作品はこれまで存在しなかったわけで、本作はファンサービスを多様に取りいれる一方で驚くほど初見の人を意識して作られているし、プリティーリズム・レインボーライブを知らない人にも積極的に勧められる作品になっていたと思う。
キンプリを観なさい。


この4クールアニメという歴史を持つファンムービーと単一のオリジナル作品としての絶妙な塩梅を成立させられたのは、主人公の造形が大きい。
原作から続く主役三人組であるOver The Rainbowに対し、キンプリの主人公として次代へ続く者として描かれる一条シンはプリズムショーを知らない。
冒頭、オバレが披露するプリズムショー。それをシンは偶然目の当たりにし、その常識外の演出に取り込まれ驚き、おののく。
それはプリズムショーを始めて観る観客と全く同じものであり、そのときシンと観客(あなた)は同時にプリズムの輝きという未知との遭遇を果たす。
そして同じ時、同じ場所で観客と同じ光を観た彼は、その輝きに自らの中で答えを出し、そうして彼が生み出した新たな輝きを見ることで観客もまた遅れて輝きの意味を知る。


かつて12クール、150話を通して描かれてきたプリズムの輝きという概念の伝承。僅か60分のうちに行われる第四の壁をも越えた二世代分の橋渡し。
そんなにわかには信じがたい物語構造を見事達成して見せた本作の構成の妙は、いくら称賛してもし足りないということはないだろう。
本作はテレビシリーズと異なり菱田監督が脚本も兼任していたため公開前はシナリオ面で少し心配もしていたくらいなのだが、ふたを開けてみればここにも監督脚本兼任名作アニメというオチであった。



応援上映編:

キンプリで最も重要なシーンはなにか。
個人的には裸仮面露天風呂が一押しだが、それはさておき。


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「みんなに、言いたいことがありま~す!」

このセリフこそがキンプリの象徴。最も大切な言葉だ。
それは単に応援上映の宣伝として最も公式から推され認知されているから、というだけではない。
このセリフが入るシーンとその前後の構成こそが、本作で最も『応援上映のために』力を尽くされた部分だからだ。


そもそも応援上映とはなんなのか。
その説明は難しいのでとりあえず上記のCM、そして下記の記事を観て欲しい。
n-styles.com

これが60分間若い女性の生音声で大音量で響き渡る中で映画を観る姿を想像してほしい。
出来ない? うん、観てきたばかりの自分でさえちょっと想像できない。だから一見の価値がある。


ともかく、応援上映とはその名の通り応援に満ちている。
つまりキャラクターと観客の距離感が極めて近い。
応援している観客は心底入れ込んで声を出しているし、そこまではしない観客でもその声援の中で映画を観ていれば否応なしにも入れ込まざるを得ない。


一方で応援とは合いの手であり、合いの手は茶化しである。
それは作品自体の没入とはむしろ相反しやすい要素であり、だからこそ応援上映という形態は意識せずに作って上手くいくものではない。
この上映形態の火付け役である本作は、事実上最初の作品でありながらその塩梅が恐ろしく上手かった。


上のPVに出てくるアフレコは最序盤のシーンで応援用の最も露骨な演出だが、これは『声を出していいんだよ』という制作側のメッセージを込めた意図した雑さであり、応援用演出の中では序の口と言っていいだろう。
以降も本作はより自然な形でシーンごとに合いの手を入れやすい構成を常々考え、その一方で合いの手が入れられないシーンを作ることで明確な緩急を構成していく。
そしてその終着点にして集大成こそが、「みんなに、言いたいことがありま~す!」なのだ。


このシーンの前、物語がクライマックスへと転がり始める段階に至り、本作は露骨に応援のタイミングを減らしていく。
話は暗さと重たさを増し、プリズムの輝きは陰り、悲しさが満ちてゆく。
そこに至るまでの入念な入れ込みと歓声のない場内という正常(いじょう)が作品の空気との強い同調を生み、世界を包む。


そうして現実と虚構が黒く重なり合った瞬間、あまねく想いを託された主人公が舞い、叫ぶ。

「みんなに、言いたいことがありま~す!」


悲しみを払い、輝きが再び世界を照らす。
その時現実にも再び声が溢れる。

「な~に~?」


蘇るコール&レスポンス。
計算しつくされた応援のための瞬間。
ここに、新たなる劇場エンタテインメントが完成した。


総括:

プリズムショーとは何か。
それは観ればわかる。
だから、キンプリは素晴らしい。



今後も6月まで毎月上映機会があるのでよろしくお願いいたします。

EVENT | 「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」公式サイト


以下適当に箇条書き
  • 古めかしくも最先端のエンタテインメントの存在を1300円で体感出来るとか今世紀最大の価格破壊なので時間がある人はほんと観て。実際ライブと考えればいくらでも値段を吊り上げる余地があるわけで、金脈は意外な形をしているものだと考えさせられる。
  • 「嫌いな野菜ある?」「セロリ」「セロリだね」というシーン→誰かが自分の嫌いな野菜を叫ぶ→以降その流れが定番に→そしてセロリだねという相槌に対して違うよーと答えるまでがワンセットにという流れは応援上映がUGC(ユーザー参加型コンテンツ。厳密にはウェブ系のみを指す)的側面を持っていることがよくわかるエピソード。
  • 作中の観客が泣いているシーンで同じように泣き声を上げつつ次のシーンのためにライトを切り替えている人の姿を見ると訓練されすぎるのも考えものだな! って思った。
  • 途中で挟まるこれまでのオーバーザレインボー!が女の子達を抜いて雑に振り返ると確かにこんな感じだったねそうそうこういう1クールアニメがあってその続編がこれなんだよという記憶がねつ造されそうになった。原作は4クールアニメだし男はみんなサブキャラだったからね!
  • アイドル花盛りの現在においてその先駆けでありながらフィギュアスケート要素からむしろアスリートとしての側面を描き続けてきたプリリズシリーズの独特の構造が対象年齢が上がったことで再び息を吹き返したように感じる。
  • 自分が観た劇場では今最も話題の映画ラ・ラ・・ランドを一枠潰して最も大きなスクリーンでやってくれた結果キャパの1割未満という悲しい結果に終わったのだが、考えてみればラ・ラ・ランドと本作の前身のレインボーライブはテーマ面でも被っている要素が結構多く、そのあたりでも運命を感じるものがあった。ラ・ラ・ランドも名作なのでついでにおすすめ。